【活動報告】 第1回 知の会所 〜延藤安弘の語りを聴く〜

 
日時:11月27日(月)18:30ー20:30 場所:スペース七番 参加者:8人 (文責:山本茜
東海ナレッジネットと延藤文庫の関わりや、延藤安弘さんについてはこちらの記録をご覧ください。
延藤安弘の語りも延藤コレクションの資料の一つ
 東海ナレッジネットで、延藤文庫のお手伝いを初めて1年半くらい経ちます。延藤安弘さんのことは、教え子である名畑さんや三矢さんからお聞きしたり、本棚を拝見するうちに、天国に住んでいる延藤先生と話しているかのような気持ちになることもあります。しかし、わたしは、実際に、お話している姿を拝見したことがありません。(ご存命のうちにお会いしておきたかったと悔やまれます・・。)延藤安弘さんの語りに、延藤コレクションの魂があるであろうと思いました。そこに触れる場が、1月15日の語り合いの会の次の一歩ではないかと考えました。「知の会所」と名付け、今後も続いていく対話の第1回。延藤安弘さんの語りを聞く会を企画しました。「街の会所」であるスペース七番に「知」会所が開かれていくことに心がわくわくします。延藤安弘さんがお話しされている様子を写した映像資料も膨大に残されており、これも延藤コレクションのうちの大事な資料です。延藤文庫の魂に触れる資料の根幹に据えられるものは何かと、考えるきっかけになるといいなという思いもあって、名畑さんに選んでいただきました。
 人々が混じり合い、育ち合う住まいを創る実践
 今回は、1980年代に住民参加でつくりあげたコーポラティブハウスについての幻燈会のフィルムを見ました。京都のコーポラティブハウス、ユーコートは、48世帯が暮らす集合住宅です。
 ユーコートは、多くの人がイメージするであろう無機質にコンクリートのハコが立ち並ぶ集合住宅ではありません。木々があり、池があり、池に棲む虫がいます。虫を食べる鳥が集まります。虫の声、鳥の鳴き声、子どもたちの声が聞こえてくる場所。人と人、人と自然環境が有機的な網目を形成するように、人と人が混じり合うような場が設計されています。人々の住まう志向に合わせて、空間は形を変え、年月と共に、有機的に変化していきます。この実践は、なんと、40年前に行なわれていて、未来を予見したような取り組みです。住まい、地域、公共空間のつくり手は学ぶべきところがあります。「こんな家に住んでみたい」そう思う人は多いのではないでしょうか。
 住人の中には、次のコーポラティブハウスを創出した人もいました。子どもたちは育ち、また、戻ってきて、新しい命を育てます。延藤さんの語りと共に、ユーコートの暮らしを写した写真が投影され、「自分たちの地域、街、周りの小さな社会から何かできるかもしれない」そんな小さな思いが心の中に生まれる語りでした。朗々と続く話芸、口談のようで、ずっと聞き入ってしまいそうな語りでした。
 人々がこのコーポラティブハウスをつくり始める話し合いの端緒に、延藤安弘さんは、「絵本」を据えました。幻燈会で紹介していたイギリスの絵本の中では、人々が垣根を超えて、新しい住まいをつくり始めます。延藤さんは、「物語」を分かち合うことが次の物語を生むことを願い、絵本を紹介していました。延藤さんは、物語を前にする人のを力を信じていたんだと思います。人間が生まれる、活動を生み出すことは、延藤先生の本棚にあったハンナ・アーレントが思い出されました。

 人、人の語りも延藤文庫の情報資源
 私は、延藤先生の語りに添える名畑さんと、三矢さんの語りもまた、大事な資料、情報源だと気づきました。延藤安弘アーカイブの所蔵資料は、5万5000冊の絵本、研究資料、映像資料と言ってきましたが、それに加えて、三矢さんと名畑さんも「人的情報資源」だと思いました。延藤文庫の「資料」になる「人」も他にもたくさんいらっしゃると思います。一人ずつ出会って、語らって、一緒に何かを生み出していくことが延藤さんが願っていた世界、場なのだと思います。
 ふと皆が沈黙する時間があり、うまく言葉にならない時間もあれば、投げかけなくても、話し出す人がいました。ある人は、自分が住んできた地域の情景を思い浮かべて語り、ある人は、大学生の頃に延藤さんの授業を聞いていたことを語りました。延藤さんが投げかけたことを、今に照らしてみると、同じように、「地域のつながりや関わり合いを共有できるだろうか??」という問いが浮かび、今の社会状況へと話は広がりました。気づけば、予定の30分を超過して終わりました!言葉にならない時間を味わうには時間が足りませんでした。
 終了後、三矢さんが、「幻燈会の存在自体が、物語的、ナラティブというか。延藤さんの話を反芻する度に新しい延藤さんが生成している。そんな不思議な機会でした。」SNSでコメントを寄せてくださいました。空間軸、時間軸、それぞれの人の物語が影響し合い、新しい物語が生まれる不思議な時間でした。もっと話したいという余韻を次の場をつくるエネルギーやヒントにし、小さなところに宿る物語を拾い集め、共創、共奏、共笑、協働しながら、延藤文庫を育てるお手伝いをしたいと思いました。
 そして、この語りの軌跡を描き起こし、グラフィックをしてくださったのは、友澤里子(グラフィックファシリテーター(社) グラフィックファシリテーション協会認定プロフェッショナル)さん。今日の物語を現す大事な資料として、人と分かち合いながら、次の物語を考えていきたいと思います。
                            (東海ナレッジネット 山本茜


 

 
【参考文献】
ユーコートについて知りたい方はこちらをご覧ください。
乾 享 / 多様な集住環境としての団地再編の空間イメージを探る コーポラティブハウス『ユーコート』の建築空間
/ 関西大学戦略的基盤団地再編リーフレットーRe DANCHI leaderー VOL.172 /2015.3

https://www.kansai-u.ac.jp/ordist/ksdp/danchi/172.pdf